えっ、この人エラリー・クイーンだったんですか?

作風が、ということではない


A Long Shadow (Inspector Ian Rutledge Mysteries)
Harper
Charles Todd

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どちらかというとこの人の作風は、アメリカ人だけど舞台はイギリスだし中身もイギリス風で、本格ミステリーの黄金期のエラリー・クイーンのような感じではないですが。
じゃあ何がエラリー・クイーンなのかというと、エラリー・クイーンはいとこ同士の二人の合作ペンネームということはよく知られているんですが、チャールズ・トッドも一人ではなくて二人の人間の合作だったという。前作までの著者紹介にはそんなことは全く書いてなかったのに、今回の奥付を見たら、「母親と息子の合作」といきなり書いてあって驚いた次第。今はネットが発達していて作家さんもHPを持っていたりするから、と早速調べてみると、チャールズ・トッドというのは息子の名前で全くのペンネームというわけでもないようなんですが、お母さんとの合作だと書いてあった。でもこの人のこのシリーズは一応ここまで全部読んでるんですが、最初は、というか前作の時点まではそんなこと全く触れられてなかったですよね。
そういえばこのシリーズ、最初の方だけ邦訳が出ているんですよね。続けて邦訳を出すというようなことだったのに全く出る気配がないので洋書に乗り換えたんですが、その後もどうも出てないっぽい。一応最初の二冊の邦訳を引っ張り出してきて解説を読んでみたが、やっぱり作者については別に合作だとは書いてなかったので、どこか途中の時点で明らかにしたんでしょう

それはさておき、イアン・ラトリッジ警部シリーズの8作目です
舞台は第一次大戦後のイギリス。戦場から帰還してスコットランド・ヤードの復職したイアン・ラトリッジ警部は、戦場での経験から心に傷を負っていた。やむを得ず処刑した戦場での部下ヘイミッシュの声が聞こえるのだ。他人にはそのことを隠し、実の姉にさえ秘密にしていたのだが、ロンドンで迎えた新年に姉の友人のパーティに招かれ、その場で霊媒を名乗る女性に会って動揺する。ヤードの呼び出しを口実にパーティを抜け出したラトリッジは、そこで戦場で使われていたマクシム機関銃の弾薬ケースを拾う
その後細かい事件でロンドンを離れた際にも、車の座席に同じ弾薬ケースが置かれていたり、道を走っているところを銃撃されたりする。だが一体誰が何の目的で自分をつけ狙うのかがわからない。
一方ノーザンプトンシャーの小さな村で巡査が矢で射られる事件が発生。その巡査はラトリッジの上司であるボウルズ警視と何か関係があるらしく、ボウルズの意向でラトリッジはその村に派遣される。問題の巡査は辛うじて命は取り留めたものの、発見された時にいた村はずれの森に行ったことを何故か認めようとしなかった。その森はサクソン人に呪われているとして村の人間が誰も近付かない森だった。またその村では三年前に一人の少女が行方不明となっており、殺されてその森に埋められているのだという噂があった。巡査はその死体を捜しに行ったのか、それが射られた理由なのか。巡査の事件を調べるうちにラトリッジはいつしか三年前の少女の行方不明事件と、少女を取り巻く人間関係に否応なくのめり込んでいく。また、ラトリッジをつけ狙う影もその村まで追ってきていた

イギリスを舞台にはしているんですが、おまけにスコットランド・ヤードの警部だというのに、ロンドンはあまり出てこないですよねえ。これは作者がイギリスの田舎が好きでよく旅をしているらしいということもあるんでしょうが。しかしそういう田舎の小さな村の、大戦の影響は受けているがまだ19世紀以前の時間を引きずっているかのような雰囲気はよく出ていますよね。舞台は年があけて1920年ですけど、ホブスボーム(イギリスの歴史家)流の「長い19世紀」(19世紀を実際の西暦の1801~1900年とするのではなく、社会情勢その他から1789~1914年までとする解釈)でくくるなら、第一次大戦まではまだ19世紀という感覚になりますしね。その方が当時の実感としては正しいかも。

ちなみにラトリッジにとりついている(?)ヘイミッシュは、ラトリッジ自身は幽霊のようなものだと思っていて、いつか振り向いたらそこにヘイミッシュの姿が見えるのではと内心恐れを抱いていて、今回自分に付きまとう見えない敵についてもそれと同じような幽霊ではと思っているんですが、しかし秘密を知っている医者は幻聴のたぐいだと言っていて、どちらが正しいのかは特に作中では語られていない。今回出てきた霊媒とされている女性についても、本当に死者と話せるのか、それともただ他人を楽しませるためにそういうふりをしているのかというあたりは曖昧になっていて、はっきりわかるように幽霊のたぐいを出したりはしないんですが、逆にそれが影のように作品全体を覆っているような感じです。

そして捜査のためとはいえ過去の事件やそれにまつわる人々の秘密を掘り起こして回るラトリッジ警部は、村の住人から来なければよかったのにと面と向かって言われたりするわけですが。さらにそれと関係があるのかどうか、村の牧師が事故に遭ったり、ラトリッジ警部本人も車に轢かれかけたりするわけなのですが、それでも何故本来の目的ではないかこの事件を探るのか、と問われて。

"I decided to become a policeman to speak for the dead. They have no one else, you see. Somewhere there's always proof of what happened, some piece of evedence that will obtain a conviction. It's important for the guilty to be brought to justice, I think. Without justice, there's chaos."
"That's sounds very like revenge, Inspector."
"No. I leave it to the court to judge. If I'm wrong, I expect the court to discover that during the trial."

ニヤリ訳「『私は死者の代弁をするために警察官になろうと決意したんです。死者には他に誰もいない。何が起こったのかを立証するもの、有罪判決を得られる証拠はいつもどこかにあるんです。犯罪を犯した者に裁きを受けさせることは大切なことだと私は思う。正義がなければ、混沌があるばかりだ
『まるで復讐のようね、警部』
『違います。裁くのは裁判所に委ねています。もし私が間違っていたら、審理の間に裁判所がそれを見つけてくれると思っています』」

ラトリッジ警部はこの時代の警官にしては珍しく、中の上くらいの階級出で大学も出ているようなので、あんまりぞんざいな口調にはならないだろうと。
しかしその熱意のあまりうっかりそもそもの事件ではない過去の事件まで捜査したりするものだから、色々問題になるんですよ(笑)

さてレンガが来るまでにもう少し続編を読めるかしら(笑)。
というわけで今日はこのあたりで。

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