ありがちなテーマなのに一味違う。

というこちら。

探偵コナン・ドイル (ハヤカワ・ミステリ) (ハヤカワ・ポケット・ミステリ) - ブラッドリー・ハーパー, 府川 由美恵
探偵コナン・ドイル (ハヤカワ・ミステリ) (ハヤカワ・ポケット・ミステリ) - ブラッドリー・ハーパー, 府川 由美恵

ご存知シャーロック・ホームズシリーズの作者コナン・ドイルが切り裂きジャックを追う
というと、ある意味でものすごく王道の組み合わせだし、私にとっては義務形ですが。

作者はアメリカの元軍人で病理学者。シャーロック・ホームズのファンで、これが処女作とのことだが、えっ、処女作にしてはハードル高くない? 
何しろ切り裂きジャックものなんて有名すぎてフィクションからノンフィクションまで山ほど本が出ているし(映画やドラマやコミックその他は言わずもがな)、同時代のホームズと組み合わせたパスティーシュもこれまたエラリー・クイーンのような大御所をはじめ山ほど書かれているし、コナン・ドイルのような同時代の有名人との組み合わせもこれまたいろいろあって。
で、あまりにも多すぎて玉石混交というのか、ジャックの正体についても有名な古今のミステリ作家含めていろいろ書かれてて出尽くしたような感があるし、その意味では書く方も難しいし、読む方もこのうえどういう話にするのかとちょっと思ってしまうわけで。

とりあえずミステリなのでネタバレしない程度にさわりだけ。
1888年、ホームズ物の第一作『緋色の研究』を発表したばかりのコナン・ドイルは、先に首相を務めたグラッドストーンからロンドンに呼び出される。イーストエンドを震撼させている連続殺人をホームズの推理法を用いて解決に導いてほしいというのだ。そこでホームズのモデルとなった恩師のジョゼフ・ベル博士の助力を仰ぎ、イーストエンドに暮らし、このあたりを知悉している作家マーガレット・ハークネスを案内人として、警察の協力も得て「切り裂きジャック」として知られることになる連続殺人犯を追うことになる。

で、タイトルの「探偵コナン・ドイル」というのはちょっと語弊があるというか、探偵役はどちらかというとコナン・ドイルの恩師でホームズのモデルになったジョゼフ・ベル博士。コナン・ドイルは語り手なのでどちらかというとワトソン役というか、むしろここにイーストエンドの暮らしや社会問題について書いている作家でジャーナリストのマーガレット・ハークネスが加わっているので、作中述べられているように三銃士トリオというか。でもまあ、この邦題の方がわかりやすくて目を引きやすいけど。

で、切り裂きジャックの事件の経緯については一応史実だし、かかわった警察関係者なども主な人物はほぼ実在の人物で、イーストエンドの描写なども非常によくできているのだが、ここにどうフィクションの物語を組み合わせるかというあたりがうまい
でもグラッドストーンが慈善的精神からイーストエンドの女性たちに関心を寄せていたというのは、まあ事実だけど、それって精力旺盛なグラッドストーンが実益も兼ねてという部分もあったのだけど、さすがにそういう部分はヴィクトリア朝の紳士なコナン・ドイル視点では語られないよな。

あと登場人物がすごく良いというか、コナン・ドイルの良き師で人格者(ここはホームズとは大分違うけど(笑))のベル博士とのやりとりもときにコナン・ドイルが推理を披露しようとしてから回るというユーモラスなところからベル博士の行動で自らを省みるというあたりまで、良い師弟関係だし。
ヴィクトリア朝の家庭の天使的な女性像とはまるで違う、独立心旺盛でときにベル博士やコナン・ドイルも圧倒するマーガレットもかなり面白い。作中のように男装し、銃を持ち出したりしていたというあたりは作者の想像の産物なのだろうけど、ホームズファンには「あの女性」をほうふつとさせるところがあったり。

そしてそもそも史実ではコナン・ドイルはホームズ物の1作目を出してから2作目の『四つの署名』まで4年の間が空いており、その間に切り裂きジャックの事件が起きているのだが、それを踏まえてのこの話と結末もそうきたか、と。
作者のシャーロック・ホームズ愛も感じられるし。
ちなみに切り裂きジャックの方は、まあ正体についてはさておき(だってネタバレになるし)、でもこういうふうに持って行くのか、と。

そんなこんなで、ただでさえホームズ物(まあこの場合作者だけど)と切り裂きジャックという高すぎるハードルに挑んだ結果は、十分クリアしてるし面白かった。おススメ
マーガレットを主人公にした続編(?)もあるそうなので、楽しみにしてますよハヤカワさん(笑)。

というわけで今日はこのあたりで。

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 1

なるほど(納得、参考になった、ヘー)

この記事へのコメント